約 2,403,890 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2357.html
学院の襲撃劇から一週間後。 「お入りなさい、ルイズ」 アンリエッタの声が、トリステインの王宮に響き渡る。 「失礼します、姫……女王様」 「いやね、私とあなたの仲じゃない、今までどおり姫様でいいわ」 フフ、と笑みを漏らすアンリエッタに、ルイズはぎこちない笑顔を返した。 それを見たアンリエッタは、ふとわれに返ったように話し出した。 「ルイズ。学院では災難だったようね。教員には死者も出てしまったとか」 「はい。姫様、やはりアルビオンの手勢の仕業ですか?」 「おそらくそうでしょうね。いまの段階では詳しいことまではわかっていないけど」 ルイズは唇をぎゅっとかみ締める。 「やはり、これが戦争なのですね……私はいままで戦争のことを甘く見ていたのかもしれません」 「どういうことかしら?」 「私はあの襲撃があるまで、敵を、アルビオンを憎らしく思うばかりでした。ただアルビオンをやっつけてやる、敵をやっつけてヴァリエール家のみんなを見返してやるって思ってました。でも、コルベール先生が死んでしまってからは、なんだか怖いんです。はは、可笑しいですよね。笑ってください。私のような愚かな臆病者がヴァリエール家の名前を受け継ぐ資格なんてないんだわ」 「可笑しくなんかありませんわ。ルイズ。それは生き物として正当な事です。それにあなたのことを誰が臆病者なんて笑いますか。そうですね、マザリーニ?」 女王は傍らにかしずく家臣に語りかけた。 「左様でございます。伝説に聞こえた勇者といえども、一大決戦の前には恐れを抱いたと言い伝えられております。ましてやあなたは貴族といえどもまだ乙女。そのようなお方が勇気をもてあそばれていれば、私ども男は立つ瀬がありませぬ」 「まったく、しょうがないやつだよ」と、愚痴をこぼすのは岸辺露伴にたいし、 「仕方がないだろう。ルイズはまだ16なんだ。人の死を経験するには多感すぎる」 とため息がちに返すのはブチャラティであった。 「相変わらず使い魔さんは面白い方たちですわね」 アンリエッタは微笑んだ。奇妙に権威の高くなっているアンリエッタの威厳がややなくなりほっとしたルイズは本題に入ることにした。 「ところで、私と使い魔に旅立ちの用意をさせるとのことですが、ついにアルビオンに行くのですか?」 アンリエッタは顔に陰のある表情を見せる。 「ええ、いまわがほうの艦隊がアルビオンに向かっています。その艦隊がアルビオンの艦隊にかち、ロサイスの軍港を手に入れれば私たちは出発します」 「勝てるのですか?」 「そのために新種の軍船と、アルビオン人の士官を艦隊につけましたが……正直どうなるかわかりませぬ」代わりにマザリーニが答え、窓の外を憂うように見た。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「始まりましたな」 アルビオン空軍司令官は、艦長のその言葉に、うむ、と頷いた。 ひとまずは、彼の望んでいるとおりに、常套的に戦闘が進んでいる。 アルビオンの誇る竜騎士隊。そのうちの風竜が、敵艦隊の上空に到達したのだ。 彼らの任務は、敵竜騎士と交戦し、あるいは、彼らより足の遅い火竜を護衛することである。 ことハルケギニアに関して言えば、アルビオンの風竜騎士隊に対して、互角に戦える竜騎士隊はない。 しかも、今回のトリステイン艦隊には、ごくわずかしか、竜騎士の護衛がいないのだ。 トリステインからアルビオン大陸まで到達し、そのまま戦闘できる竜騎士は存在し得ない。 そこまで竜を操る人が、疲労困憊を極めて戦闘不能になるのだ。 そのため、彼らには、戦列艦の甲板に乗り合わせた少数の竜しかないハズである。 それも、アルビオンの、熟練の竜騎士にかかっては戦力たりえないだろう。 アルビオン大陸を防衛する、守る側の利点の一つといえた。 艦長達の見据える視線の先では、彼らの望む地獄が始まっていた。 トリステイン空軍は喧騒に包まれた。 「方向右方二十度ッ! 敵竜騎士二十頭、来ます!!!」 「迎撃ヨーゥイ!!」 「火竜、こちらに向かって接近!」「五頭、近いッ!」 「帆を守れ!」 「速力を落とすな!」 「ヘッジホッグ用意!」 最後の怒号とともに、船の甲板に多数の投石器が甲板に並べられた。 そこに搭載されるのは、火縄で数珠のように連なったちいさな砲弾たち。 「照準、上に4コマ、右に6コマ修正ッ!」 「一番右のやつだ! 狙えッ!」 平民の士官により、手慣れた手つきで操作する自由アルビオン軍の兵。 その砲弾はディテクトマジックの応用魔法がかかっており、 竜騎士のような、魔力を持つ生物に接近すると発火する仕組みになっていた。 「射ェーッ!」 狂気の花火がはなたれた。 多くがむなしく虚空へと消え去っていく中。 わずかにだが本懐を遂げる砲弾たちがあった。 火につつまれ、堕ちてゆく竜がある。 だが、それ以外の火竜は、弾幕を無視した。 怒涛のごとく、艦船に突撃を続行する。 自身が火達磨の状態で突っ込む竜騎士もある。 その火の塊は、一隻の小型艦艇と衝突した。 「『ハーマイオニー』大破ッ! 炎上!」 「高度が低下してゆきます!」 ―― ボーウッドは、その戦闘風景を、自分の竜母艦『ヴュセンタール』の指揮所にて、艦長として眺めていた。 誰が見ても、戦端が開かれたのはわかっている。 だが、そのなか、副長はあえて報告した。 「艦長、戦闘が開始されたようです」 ここからでは、『ハーマイオニー』の高度の低下が、これ以上の被害を受けないための措置なのか、損傷のための墜落なのかはわからない。 このフネ、『ヴュセンタール』は、それほどまでに戦場空域から離れていた。 「うむ。わかった」 副長の、報告の形をとった問いかけに対し、艦長のボーウッドは、彼の期待したような交戦命令は発しなかった。 副長は自分の上司に、とてつもなく深刻な疑問を抱いた。 このアルビオン人は信用できるのだろうか? 仮に信用できたとして、はたして有能なのか? 「副長」 「ハッ」副長は敬礼を返す。彼は思った。 隷下の竜騎士隊たちにたいし、いよいよ出撃命令を下すのだろうか? この艦長、ボーウッドは、なぜか竜を甲板にも出さず、格納室へ待機させたままだ。 副長の見るところ、すでに友軍の竜騎士、戦列艦付きの竜騎士隊は圧倒されつつある。 今のままでは、敵の竜に戦場の制空権を奪われかねない。 われらの艦長はあくまでも冷静のようだが。と副長は内心考えていた。 臆病風にでも吹かれたか? このアルビオン人は? 副長のその思考を、当の艦長が邪魔した。 「我々は、この『竜母艦』が戦闘艦であることを熟知している。だが、敵のアルビオン艦隊からしてみれば、どのような艦種に見えるだろうか?」 副長は、自分の直接の指揮官に対し、最低限度の礼は守った。 「……おそらく、彼らは本艦を輸送艦と思うでしょうな」 「そうだな。本官もそう思う」 だれがいったか、 「……艦長、命令を」 この言葉は、艦長以外の、指揮所に居合わせたトリステイン軍人の総意でもある。 ボーウッドは、戦場を眺めながらゆっくり口を開いた。 「本艦を輸送船とみなしているのであれば、交戦中は、我々を脅威とはみなすまい」 副長は、艦長の言うことがいまひとつわからないでいた。 この間艦長は、アカデミーで学生を相手に講義するプロフェッサーのような態度で部下に接している。 「戦術教義上、艦隊から離れている輸送艦を攻撃するときは、余力が発生したとき。勝負が決したときである。 すなわち、彼らが勝ったと思っているときだ。そのときまで、彼らはこの『輸送艦』を略奪すまい」 「……どういうことでしょうか?」 「だから、その決定的な局面まで、本艦は攻撃を受けずにやり過ごすことができる」 副長は険のかかった顔を前面に押し出し、はっきりと詰問した。 「艦長の真意をお聞かせ願いたい」 ボーウッドはそれに答えず、たった一つ、命令を発した。 「竜騎士隊たちに令達。別命あるまで待機」 副官は開いた口がふさがらない思いだった。 ボーウッド、いや、この男は戦わないつもりなのか? ―― 小さな敵の船がたくさんこちらにやってくる! レドウタブール号の甲板に居合わせた、マリコルヌがそう思っていると、彼の目の前に鉄の塊が突き刺さった。 なに、これ…… あ、敵の放ったバリスタの矢か…… 彼がそこまで考えたとき、マリコルヌは頬を思い切り叩かれた。 見れば、のこぎりを持った平民が自分を怒鳴りつけている。 「バカ野郎! メイジならさっさと魔法を唱えて敵を止めろ!」 そういって、彼は甲板に突き刺さったバリスタの先を指差した。 そのバリスタの矢尻には、巨大な鉄の鎖がついており、その先は敵の船につながっている。 そして、その鎖をわたって、敵のメイジたちがやってきている!!! マリコルヌは恐慌のうちに、わけもわからず魔法を唱え、放った。 偶然か、必然か? マリコルヌの放った魔法は、一人の若いメイジをかすった。 結果、彼を鎖から引き離した。 その敵メイジは中空に静止する。 その男は『フライ』を唱えているため、彼に、魔法による攻撃戦力はなくなった。 とにかく、マリコルヌは一人の敵メイジの無力化に成功した。 だが、事態は刻一刻と変化を遂げている。 マリコルヌは、自分の戦果を確認する暇も与えられないまま、新たな目標に向かって攻撃魔法を唱え続けた。 その周りで、船員たちの怒号が鳴り響く。 「急いで鎖を切断しろ!」 そうどなる水兵は鉈を持っている。 「接舷されたら降下猟兵が降って来るぞ!」 斧を持った男がそれに応じる。 「こっちにも手斧を頼む! 至急だ!」 どこかから野太い怒号が聞こえる。 「くそっ! どんどん引き寄せられているぞ!」 「弓兵、矢を増やせ!」 「近接戦闘用意! 来るぞ! 槍衾だ!」 この後、マリコルヌに理解できた言葉はなくなった。 彼は、自分が今、何をしているかもわからなくなったからだ。 かろうじて自分が小便を漏らしているのがわかる。 だが。 自分がどの魔法を唱えているのか。 隣にいる人の気配は、敵なのか。それとも味方なのか。 それすらもわからないまま、マリコルヌは杖を振り続ける。 ―― ボーウッドの、先ほどの副長との会話から半刻後。 「君、トリステインでも、竜騎士たちは狐狩りをするのかね? その、竜に乗って」 「ええ、行いますが。それが何か?」 彼にそういわれた若い竜騎士、ルネ・フォンクは怒気を隠さずに答えた。 竜母艦の指揮所に呼ばれ、すわ出撃か、と思ったらこれだ。 何をのんきな。 一体この男は何を考えているんだ? やっぱりみんなの言っていたとおり、このアルビオン人は裏切っていたのか? 「それでは、君ならばわかるだろう。戦と狩は根本的な所で同一なのだ」 それはそうだろう、とルネは思う。 犬に周りを囲ませて退路をふさぎ、自分たち竜騎士と犬で目標を討つ。 現に今。 犬をアルビオン艦艇に例えれば。 友軍の艦隊が、狐のように包囲されてしまっているのだ。 しかも、戦列艦による艦砲射撃のおまけつきだ。 初陣の自分でも、トリステイン艦隊が負け始めていることがわかる。 そのような状態で、このフネは戦闘に加わることも無く、自分の高度を上げ続けている。 「そんなことっ、士官学校を出たものならば常識のことです」 ルネは、己の持つ最大限の自制心を発揮した。 「ならば、なおのこと良い。ふむ、トリステインの士官学校は、聞いていたほどには堕ちていない様だな」 なかばたたきつけるように返答したルネに対し、ボーウッドはあくまでも鷹揚に返す。 このアルビオン人を戦死させようか? 『流れ弾』にあたった、『不幸な戦死』をあたえるべきだろうか? ルネがそこまで思いつめ始めたとき、不意に、当の士官から質問された。 「君、狐狩りの最中に、竜騎士が守るべき三大規範は何だ?」 あまりにも戦場とは異なる質問。 その思わぬ質問に、唖然としながらも、ルネは返答することができた。 「まず、獲物に反撃されないように注意すること。次に、獲物に狙いをつけた人と、その獲物の間に自分の身をさらさないこと。最後に、獲物を狙って急降下している、他の竜の進路を邪魔しないこと。以上のみっつです」 ボーウッドはうなずいた。 「そのとおりだ。ならば、諸君ら竜騎士隊に対し、今から命令を発す。 アルビオンの狩人たちに対し、その規範を破りたまえ。可及的速やかにだ」 ルネたち竜騎士は、一瞬の遅れの後、敬礼を返す。 ボーウッドは簡素な敬礼を返しながらも、簡潔に続けた。 「だが、まずは生き残ることを考えろ。彼らは、君たちよりもよほど竜の扱いに長けている。敵にとっては、動いて、生き続けている的が多いほど、獲物に対する狙いがつけにくくなるのだ。さあ、行きたまえ。出撃だ」 「「ハッ!!!」」 ルネ・フォンクと仲間たちは、はじかれたように、自分の竜のもとへと駆け出した。 彼ら自身が狩人となる為に。 または、獲物と成り果てる為に。 彼らまだは知らない。 同じ船に乗るマンティコア隊とグリフォン隊には、別の命令が発せられたことを。 ―― アルビオン竜騎士団、風竜第三連隊、通称銀衛連隊。 その隊長、サ-・アンソニーは己の竜を操りながら、眼下で繰り広げられている戦況を冷静に俯瞰した。 そこでは、敵である戦列艦隊群を小型のスループ船が包囲している。 味方のスループ船が二手に別れた、二つの縦列陣。 一方は敵進路の右方に展開し、もうひとつは後方へと回り込んでいる。 彼らは、遠方からの援護射撃の元、大型船の戦列艦と互角以上に戦っていた。 味方の小型艦は、勇敢にも戦列艦に接舷し、突っ込み、乗員を敵甲板に乗り移らせている。 まるで海賊だな。 彼はそう思ったが、実際は海賊以上であった。 小型艦があまりにも接近したため、敵戦列艦の砲撃では、彼ら自身も誘爆をおこしかねい状況だ。 また、敵艦のうちいくつかは、高度をとることを試みている。 だが。 「クオックス小隊、降下開始!」 アンソニーの近くで、輪乗りをしていた火竜の乗り手が叫ぶ。 その掛け声とともに。 合計十五頭の火竜が、高度を上げ始めた敵艦にたいし急降下を開始した。 一方で、すでにそのような急降下を終え、敵の帆を焼き払った竜騎士隊がいた。 彼らは高度をあげ、元の攻撃開始座標まで上昇するつもりだ。 今のところ、我々は勝利しつつある。 アンソニーには、戦場で、そのように考える余裕があった。 その理由は、彼がベテランの竜遣いであったからだ。 だが、一番の理由は、彼ら風竜の主敵である、敵竜騎士隊を全滅させてしまったからである。 現在、高度を上げつつある火竜部隊。 たしか、スワローテイル小隊だったな。 アンソニーがそう思ったとき、彼らの統制の取れた隊形が。 急にバラバラに乱れていく光景を目の当たりにした。 「各隊、散開!」 彼は無意識のうちにそう叫んだ。 だが。 その命令は、一寸程遅かった。 次の瞬間、猛烈な魔法の奔流が、はるか上空から彼らに襲い掛かった。 今の一撃で、アルビオンの竜騎士の半数が失われた。 歴戦の戦士であるアンソニーの脳裏に、そのような電算結果がはじき出された。 「糞ッ!!!」 彼自身はそういいつつ、自分の風竜に回避のため旋回行動をとらせた。 何よりも痛いのは、この混乱のせいで、まともな指揮が取れなくなったことだ。 彼がそう考えているうちに、間抜けな味方から、次々に打ち落とされていく。 ―― ルネ・フォンクとその仲間達は、敵の誰にも気づかれること無く、戦場の上空に到達することができた。 彼らの真下には、負け始めた味方。 ルネと味方との間に、うようよといる敵竜騎士。 ルネ達は太陽を背にし、急降下を始めた。 無論、魔法を唱えながら。 彼らが急降下しながら放った最初の一撃が、敵にとって一番の致命弾であった。 ルネらの存在は直前まで敵に知られることが無かった。 そのため、ルネたちは思い思いに、自分が得意とした大魔法を唱えることができた。 彼らの大規模な効力魔法射撃により、敵火竜の殲滅に成功する。 一部風竜の撃墜にも成功した。 だが、さすがはアルビオン竜騎士団。 この状態で、かなりの風竜騎士が奇襲の回避に成功している。 彼らは、竜の手綱を翻し、すかさず反撃に移る。 高度の差の不利にもかかわらず。 彼らはトリステイン竜騎士達の後ろにぴったりと張り付いた。 トリステインとアルビオンの竜騎士の技量の差である。 だが、このとき。 ルネたちトリステイン竜騎士は、ボーウッドから教えられた新戦法を実行していた。 アルビオンの狩人が、トリステインの竜の後ろに付き続ける。 しかし、トリステインの戦士は戦士らしからぬ態度を見せた。 彼らは、ひたすら逃げに打って出たのだ。 しかも、高度をとりながら。 高度をとる、ということは、減速することと同義である。 たちまち追いついたアルビオン竜騎士が、杖を振り下ろす。 否、振り下ろさんとするとき。 まさに、そのとき。 太陽のぎらついた輝きの中から、新たなトリステインの竜騎士隊がその戦渦に突入した。 今までいた敵に狙いをつけていたアルビオン竜騎士は、その流れにまったく付いていけない。 アルビオンの狩人に、攻撃を食らって墜落する者が続出した。 攻撃を食らわずに済んだ狩人たちも。 新たな騎士と今までの騎士。 どちらに狙いをつけるか決めかねた。 また、決めた人間も。 狙いをつけたとたんに、そのトリステインの竜は逃げ出す。 それを追いかけるうちに、別の戦士に攻撃される。 アルビオンの竜騎士達は。 こうして、戦場の狩人たる資格を失っていった。 ―― 「いったいどうしたのだ、これは!」 アルビオン軍の司令官はそう叫んだ。 乗り合わせた、レコンキスタの政治将校とともに。 彼は驚愕した。アルビオンの竜騎士は、世界最強ではなかったか? だが、その疑問は晴らされることは無かった。 「敵襲ゥ!!!」 その絶叫で、彼はようやく自分の乗る戦列艦が襲撃されているのを自覚した。 だが、何者によって? 政治将校は、その襲撃の報告を虚言と信じた。いや、自分を騙した。 トリステイン艦隊の、戦列艦すべてはかなり遠くにある。 トリステインの竜騎士は、アルビオンの竜騎士に対して(信じがたいことに)互角以上に戦っている。 そんななか、戦列艦の砲射撃にかまわず攻撃できる敵戦力があるとはとても考えられない。 そのように考えている彼の指揮所に、一匹のマンティコアが侵入してきた。 これは夢だ。 「敵のマンティコアなど、ここまで飛んでこられるわけがない! ハルケギニアの大陸まで、どれだけあると思っている!!!!」 彼の、喰われるまえの最後の叫びだった。 ―― 「勝ちましたな」 そういった副長は、肝心のボーウッドが相変わらず仏頂面な事実に内心驚いていた。 護衛艦を欠いた敵戦列艦にとって、有効な攻撃手段は艦砲射撃のみである。 ボーウッドの命によって、幾十もの獣が、戦列艦の甲板員を食いちぎっていく。 彼らに、反撃するすべは無きに等しい。 敵総指揮官が乗ったと思われる戦列艦群から、敵戦艦がひとつずつ、だが、確実に堕ちて行く。 味方の艦隊も、ボーウッドが放った竜騎士隊の援護を受け、徐々に制空権を取り戻しつつある。 彼らが勝利を収めるのは時間の問題であった。 「副長、ここでこういうのもなんだがな」 ボーウッドは、副長を見もせずに話しかけていた。 「ハッ、何でしょうか」 「私は、人殺しというものが好きではないのだ」 ボーウッドに向かって、思わず敬礼を行った副長は。 この勝利をもたらした張本人に個人的な敬意を感じ始めていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 昼。ガリア王宮にて。 ドッピオが王宮の主、ジョゼフに報告を行っていた。 「トリステインも、あの学院襲撃にあいようやく重い腰を上げたようです」 「いよいよ、アルビオンでの戦いの火蓋は切られたようだな。結構結構」 王座の主は鷹揚に笑う。その目線の先には、アルビオンのロサイス港が映見の鏡に映されていた。所々戦争の煙がたなびいている。 「いいんですか?せっかく苦労してあのクロムウェルを帝位につけたのに」 「気にするな。苦労したのは私ではない。お前だ」 「……そうですけど」 「それに資金はたっぷりとある。お前が売りさばいた麻薬の資金がな」 「ひょっとしてパッショーネの資金、全部つかっちゃったんですか?」 「いいではないかドッピオ。狗の相手よりは戦処女の相手をしたほうが万倍も色気があるというものだ。さあ、アルビオンに向かうのだ。混乱の刻印を刻みに。死者の慟哭を叫びに」 「了解しました。王様」 ドッピオは敬礼をかざし、王宮の間から退出した。 しばらくの時間のあと、ジョゼフは王の椅子から立ち上がった。 沈黙の後、王の口元からクックックと笑いがこぼれる。 「わが弟、シャルルよ。見ているか、お前の弟の悪業を。オレはここまでやっても心は痛まぬ。お前を殺したときの後悔等と比べれば今の心の痛みなど無いも同然。お前は優しいからあの世から嘆いているだろうな。今ごろ自分がガリア王になっていればと、そう思っているのではないか?今さら遅いわ。すべてはオレがお前を殺した10年前から事態は転げ始めていたのだ」ジョゼフは気にした風もなくメイドをよび、ワインをグラスに注がせた。 「わが弟よ。お前のいない世界はなんと感情を感じぬのか!このくだらない世界など……いや、あえて言うまい。シャルルよ、あの世から見ておけ。俺はこの世界で自分がどこまでやれるか試してやるつもりだ。このブリミルの世界に、どこまでオレの劣情が刻みつけられるのか。その暁には、おそらくひどく後悔するのだろうな。ああ、わくわくするぞ。どきどきするぞ。後悔と懺悔が漣のように我が身を襲うのであろうな!それを思うだけで今から果ててしまいそうだ!」ジョセフの高笑いはその後しばらく続いたのであった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1055.html
「シエスタさんが変態貴族のモット伯の所へ奉公することになった。」 「・・・で?」 「助けに行ってくるので今日は休みます。」 「はぁ!?何いってんの!?使い魔に休息なんて無いわよ!!」 「うるせぇ!!労働基準法違反じゃあないか!!」 「だいたい助けるって何するつもりよ!!」 「とにかく今日中には帰ってくるんで!じゃ!」 「あ、こら!待ちなさい!!」 新ゼロの変態 間奏曲(インタールード) さて、こういう場合彼ならどういう行動を取るだろうか? モット伯の所へ殴り込む?彼の性格上、これはないだろう。 しかもモット伯は多少は名の知れたメイジである。 ギーシュなんかとは格が違う。 やはり、口先八丁で丸め込むつもりだろう。こっそり忍び込んで連れ出すつもりかも知れない。 いずれにしろ・・・あまりいい結果は想像できない。 下手したら逮捕される危険性だってある。 そんなことを考えて、ルイズは深いため息をついた。 しかし、当の本人は夕方、シエスタを連れて帰ってきた。 「・・・あんた、何したの?」 「何って・・・シエスタさんを返してもらうようお願いしただけさぁん♪」 「・・・やけに機嫌がいいわね。じゃあ、仕事いつもより多くやっても大丈夫ね。」 「おいおい、そいつはひどいな!HAHAHAHA!」 ルイズは、ノリノリで掃除をするメローネを見て気分が悪くなった。 ルイズは知らない。 メローネがこう呟いていたことを。 「くっくぅ~ん。新しいカモ見つけちゃったぜ。しかも貴族様だぜ。くっくぅ~ん。」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1588.html
食事は特に何事もなく済んだ。 アルヴィーズの食堂の銅像は動くらしい、ぜひみてみたいモノだ。 食堂に入った途端に視線がぼくらに向くが、ルイズはそれら全てを軽やかにスルーした。 当然ぼくもそれに習ってスルーする。 「引いて」 「それくらい自分でやれ」 と言いながらも椅子を引いて座らせてやる。 テーブルはとてつもなくでかい、百人がけくらいのテーブルか。 まぁ食堂のテーブルだとこんなもんかと思いながら厨房へ向かう。 「赤ん坊と一緒に何かもらってくるよ」 何か言い足そうにしているルイズに気付かないふりをした。 どうせ主としての威厳を保つために小細工でもしようとしたのだろう。 しかしそんな事はぼくにはお見通しだ。 この岸辺 露伴容赦せんっ! 壇上で教鞭を執っている中年女性はシュヴルーズと言うらしい。 土のトライアングルメイジ。トライアングルは属性を三つ足すことが出来るメイジとのことだ。 最初にルイズを読んだときにそんなことを書いてあったことを思い出す。 ちなみにぼくの御主人は一つも足せない、故に「ゼロ」だと言うことは既に把握している。 そのため、あのデブが言ってたゼロの意味を今更訊くことはしない。 無駄だからな。 魔法を使おうとすると爆発するらしい。まるで吉良だな。 シュヴルーズが小石を教卓の上に置いて杖を振るうと、石ころがキラキラと輝く金属へと変化した。 おぉ、素晴らしい。それが錬金か、興味深い。 ん? キュルケがその金色を見て乗り出して「ゴールドか」と訊いている、俗物か。 キュルケの問いにシュヴルーズは真鍮だと応える。 どうやら金はスクウェアでないと出来ないらしい。 その辺りは少々詳しく問いつめたいな。 合金である真鍮は可能で、単一元素金属である金へは出来ない理由が不明瞭だ。 貴金属だからとか価値が高いとか希少だからと言った理屈はぼくら人間による感覚でしかない。 物質としてみるならば全てはすべからく同一の価値であるはずなのだから。 モノの価値は人が見出すモノである。それはどんなモノでも一緒だと思う。 シュヴルーズがルイズを指名して前に出て錬金するようにいった。 当然全員恐怖におののく。爆発するのだから仕方ないだろう。 「やります、やらせてください!」 キュルケが説得したが逆効果になったようだ。ルイズは半ば意地になって席を立ち、階段を下りていく。 生徒達がみんな一斉に机の下に隠れだす、ぼくもそろそろ避難しておこうか。 ふと、一際大きな杖を持った少女が人知れず外へ出て行くのが見えた。 そうだな、外が一番安全だろう。 それに、一人だけ出ていくなら本にするチャンスだ、ぜひ読ませてもらおう。 『ヘブンズ・ドアーーーッ。自身と露伴を透明にする!』 腕の中の赤ん坊に、そう書き込んだ。 赤ん坊のスタンド。『アクトン・ベイビー』はモノを透明、厳密に言えば不可視化させるスタンドだ。 その効果範囲は自分中心。されどその効果範囲はストレスや緊張で広がったと、ジョースターさんや仗助は言っていた。 ならば、ぼくの体まで範囲にすることが可能だと思っていたが、予想はばっちりだった。 赤ん坊故に制御できないスタンドだ。 こちらの世界に飛ばした時も、赤ん坊は自分の体だけ範囲にしていた。 一緒にいたのがぼくでほんとうに良かったと思う。ただ一言、赤ん坊に『スタンド能力を使えない』と書き込むだけで十分だからな。 一旦『透明になっても岸辺露伴には見えるようにする』と書こうかと思ったが。他の人に見えなくて巻き添えを食らったりしたら大変だから断念した。 そう、丁度背後から聞こえる爆発音なんかに巻き込まれたりしたら、ね。 それにしても少女はどこへ行こうというのだろうか。 見えない状態になったまま、後を付ける。 床は石造りなため、足音がコツコツと響く。 時折少女は背後を振り返って怪訝そうに振り返る。 なかなか気配に敏感みたいだ、それとも靴音が聞こえるのだろうか。 しかし腕に赤ん坊を抱いているから靴を脱ぐ訳にもいかない。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 それにしてもずいぶん大きい杖だ、しかしそれでこそ魔法使いと言った風情がある。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。 おっと、考え事をしてしまった所為で止まるのが一歩おくれてしまった。 タバサは、図書館へ向かっていた。 あのヴァリエールの魔法が失敗するは自明の理、至近距離で爆発を喰らえばあの先生はただでは済まないだろう。 それに教室も同じく、残りの授業なんて出来るはずもなく中止になるはずだ。 ならばあの場に留まっている必要もなく、図書館で自習をしようと、教室を出たのだが。 なんだかおかしい。 立ち止まって背後に振り返るが、聞こえてくるのは爆発の残響だけ。 案の定ヴァリエールは失敗したようだ。しかしその事は今はどうでも良い。 何かがおかしい。何か足音が妙に響いているような気がする。 普段はこんなに響いている記憶はないのだが、気にしすぎだろうか。 今通った道を凝視するが、何も見えない。 やはり気のせいのようだ。 タバサはそう納得して再び歩き出す。 しばらく歩いたが、やっぱりおかしい。 ピタリと止まった、その時、違和感は現実となって襲ってきた。 コツ。と足音が一つ、多く…………。 「どこいったのよあいつはっ!」 メメタァに破壊された教室を、一人で片付けているのは我らがルイズ・ド・ラ・ヴァリエールである。 錬金の失敗によって破壊された教室を片付けるように言われた。 もちろん魔法を使わずに、とのことだが元々魔法の使えないルイズにはそんな制約はなんの意味もない。 が、一人でやるとなったら話は別だ。 気付いたら露伴がいなくなっていたのだ。席を立って教卓の前に行くまでは確実にいたはずなのに。 「どこいったのよあいつはっ、もーーーー。もーーーーーっ。もーーーーーーっ!」 地団駄を踏むが、いないモノはいないのだからしょうがない。 片付け完了が長引くだけだ、ルイズもそれを理解しているのだろうが、ヒートアップとクールダウンを繰り返している。 「どこ行ったのよあいつはーーーーーーっ!」 ルイズの叫びは、教室の壁に虚しく吸い込まれた。 「なるほど、図書館か」 突然背後から聞こえてきた声に、柄にもなくタバサは飛び退いて杖を構えた。 構えた先にいたのは、赤ん坊を抱いた露伴。 その姿を認めると、杖を引いた。 「いや、教室を出て行くところが見えたので少々気になってね。悪いけど尾行けさせてもらったんだ」 「……貴方は……」 「岸辺 露伴だ。一応ルイズの使い魔と言うことになっている。こっちは静・ジョースター」 露伴がそう紹介すると、静はタイミング良く「きゃは」と笑った。 「………何か用」 「? 君は何を言っているんだ。理由はさっき言ったじゃないか」 露伴が変なモノを見るような目でタバサに返す。 要するに用はない。 「……どうやって」 タバサは、露伴がどうやって隠れて後を付けてきたのかが気になった。 しかしタバサのその質問を無視しつつ、その腕の静をタバサに押しつけて本を抜き取った。 あいた左手で本を開き、右手でペラペラとページをめくる。 しかし、その瞳は読んでいるようには全く見えず。ただ流しているだけに見えた。実際その通りだが。 「読めないな……言葉が通じているのに文字は読めない。謎だな、召喚魔法にその辺りの理由があるのか………」 「質問に答え……」 『ヘブンズ・ドアァーーーーッ!』 タバサの腕から静を返してもらいながら、露伴はチカラを発動する。 能力の発動とともに、タバサの全身が弛緩し崩れ落ちた。 タバサが崩れ落ちる音は静寂な図書館に割合大きな音を響かせた。 司書の教員や、自習をしていた生徒達からの視線が注がれる。 「いや、なんでもない。ちょっと立ちくらみしたみたいだ」 露伴がそう言うと、ソレで納得したように生徒達は再び勉強に向かう。 「さて」 一番近くの椅子を引いて、そこにタバサを座らせる。 しかしその体に力は入っている様子はなく、だらりとした手の平からは杖が床に転がった。 静をそのテーブルの上に寝転がせ、タバサの杖を右手で持ち、 露伴はゆっくりとページを開いた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1879.html
明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。 「なんだこりゃあ…」 正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。 シエスタの頭があって本気でビビった。 おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。 普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが 正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。 素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。 …が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。 脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。 したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。 もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。 暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。 ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。 ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。 老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。 首を曲げるとゴギャンと良い音がした。 妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。 一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。 「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」 さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。 本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。 イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。 ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。 少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。 「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」 床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。 「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」 「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」 まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。 ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。 「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」 襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。 妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。 だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ! 無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。 それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。 グビィ 喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。 …が、今現在は何の感情も沸いてこない。 「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」 重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。 とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。 なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。 「あう…いたた…」 プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。 状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。 「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」 失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。 酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。 シエスタは前者と見て間違い無い。 「でも、なにか良い事があったような…」 必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。 一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。 「夢だわ…夢!……たぶん」 リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。 もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。 が、それはそれ。 未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。 ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。 まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。 そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。 どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。 「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」 R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。 妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。 生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。 もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。 本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。 自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。 おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。 廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。 大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。 「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」 まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。 防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。 急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。 プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。 つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。 だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。 (おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?) 自分でもそう思わないでもないが無理も無い。 パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。 スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。 ただ、感情的な面から言えば別だ。 アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。 前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。 組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。 本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。 だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。 「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」 そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。 リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。 とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。 この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。 空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。 場所は池のある中庭の小島の影。 城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。 バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。 まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。 実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。 今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。 ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。 さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。 どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。 放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。 「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」 遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。 一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。 不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。 石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。 こちらも見知った顔だ。 昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。 それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。 細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。 今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。 「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの? 皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」 ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが それは、もうここには居ない。 才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが 今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。 「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」 さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが 自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。 「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」 「嘘じゃないっての」 「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」 非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。 「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」 「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」 言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。 ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。 ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。 ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。 いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。 「バカか?お前は!」 「なによ!誰がバカよ!」 「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」 「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」 「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる! 正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」 「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」 売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。 ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。 「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」 横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。 思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。 池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。 理由は分からんが、なんかやったのだろう。 体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。 「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」 武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。 回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。 無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。 一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。 ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。 無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。 ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。 何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。 続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。 「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。 で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」 「かしこまりました」 モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。 殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。 直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。 何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。 ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。 取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。 「やべぇかもな…」 淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが 急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。 今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。 思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。 そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。 『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』 意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。 放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。 すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。 元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。 「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」 一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。 放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。 何故だかよく知っている気がしたからだ。 だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。 「ま、待って!戻って!」 「無理言うな!」 戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。 諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。 この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。 煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。 公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。 暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。 「…どういうつもり?」 「何がだ?」 「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」 見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。 「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」 「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」 「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」 どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。 そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。 「な…何故それを…!」 またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。 「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」 「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」 例によって聞いちゃいないようだ。 「まぁ気にすんな。強く生きろよ」 もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。 後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。 「ヤッベ…やりすぎたか?」 「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」 言うが否や鞭が振るわれる。 それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。 「おい、戻ってこい」 こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。 どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。 (これよ…!これでないと!!) 今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。 理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。 半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。 「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」 「か…ッ!」 非常に良い音がしたが、それもそのはず。 重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。 ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。 「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」 一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。 寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。 そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。 そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。 『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。 この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。 街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。 遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。 普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。 少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。 「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」 「ウニャン」 そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。 とことん自由な生物(ナマモノ)である。 完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。 そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。 ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。 一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。 「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」 「あらあら、あなた程じゃないわ」 兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。 笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。 「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」 一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。 天敵というのはこういうのをいうのだろう。 もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。 なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。 「あいつらはどうした?」 「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」 その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。 笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。 包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。 布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。 「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」 「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」 例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。 「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」 今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。 仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。 そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。 「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」 そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。 「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」 「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」 無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし 守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。 頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。 レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。 その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。 「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」 本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。 「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」 そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。 「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。 誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」 出来て当然と思い込む。 精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。 病は気からという諺もある。 やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。 しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。 「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」 そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。 寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。 相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。 今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。 やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。 プロシュート兄貴―無職! エレオノール姉様―『未』覚醒! 猫草―ヴァリエール家に根を張る 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/744.html
ルイズが起こした爆煙が晴れると……そこには一本の剣が突き立っていた 「見ろよ! 『ゼロ』のルイズは剣を喚び出したぞ!」 「凄いな……負の意味で」 「いや、インテリジェンスソードの可能性も…」 周囲からの嘲笑を右から左へ聞き流し、剣を手にとってみる ルイズの頭の中に、誰かが語りかけてくる ──わたしの名はアヌビス…おまえはわたしの本体になるのだ…… (あんた…インテリジェンスソード……?) ──おまえは達人になった…誰よりも強い剣の達人だ…… ──私を使って殺すのだ…… ピシィィィン 「チクショオオオオ! くらえギーシュ! 必殺エクスプロージョン・スラッシュ!」 「さあ来いヴァリエール! 僕は実はモンモランシー一筋だぞオオ!」 ザン! 「グアアアア! こ、このトリステインの種馬と呼ばれるギーシュ・ド・グラモンが…『ゼロ』のルイズに… バ…バカなアアアアアア」 「ギーシュがやられた…」 「フフ…所詮ギーシュはドットクラス… 『ゼロ』のルイズに負けるとはメイジの面汚しね…」 「くらええええ!」 ズサ 「グアアアアアアア」 「やった…ツェルプストーとついでにタバサを倒したわ… そしてこの間学院に侵入した泥棒・『土くれ』のフーケを倒せば、もうあたしをバカにする奴はいなくなる!」 「よく来たわねミス・ヴァリエール…待っていたわ…」 「オスマン学院長の秘書のミス・ロングビルが『土くれ』のフーケだったの…! それにこの魔力は…トライアングルクラス…!」 「ミス・ヴァリエール…戦う前に一つ言っておくわ。私が盗んだ『破壊の杖』だけど、私には使い方が分からなかったの」 「な、何ですって!?」 「だから学院の宝物庫に戻しておいたわ。あとは私を倒すだけね、フフ…」 ゴゴゴゴ… 「上等よ…あたしも一つ言っておくことがあるわ あたしの魔法が失敗して爆発ばかりなのは『虚無』の属性に関係があるような気がしていたけど、別にそんなことはなかったわ!」 「あらそう」 「ウオオオいくぞオオオ!」 「来なさい小娘!」 ルイズの魔法が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/704.html
ニューカッスル城礼拝堂。始祖ブリミルの像が置かれている場所に皇太子の礼服に身を包んだウェールズが佇んでいた。 周りは戦の準備や脱出者の手伝いなどで忙しいため他には誰も居ない。 ウェールズもこの式が終わり次第すぐにでも戦の準備に駆けつける予定だ。 そこに扉が開き。ルイズとワルドが現れた。ルイズの方は昨日プロシュートから式があると聞かされていたものの、まだ戸惑っている。 もっとも、昨日言われた『なら、気絶させてでも連れ帰るか?オメーにそれをやるだけの覚悟があんのならやってやってもいい』 これを本気で考えていたため、結婚の事など頭から消し飛んでいたのだが。 確かに気絶させるなりすればウェールズをトリステインに連れ帰る事はできる。 …だが、問題はその後だ。『自分一人無様に生き残ったと思い命を絶つ』 そうなった場合、下手をすればアンリエッタまでもがその後を追いかねない。 もちろん、自殺するとは限らないが『覚悟』という言葉が重くのしかかっていた。 死を覚悟した王子を止める『覚悟』ができない自分に対して自暴自棄な気になり落ち込ませていた。 ワルドはそんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と告げアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せ 続いて、何時も着けている黒のマントを外し同じく借り受けた純白のマントをまとわせる。 ワルドによって着飾られても、思考の渦に埋まっているルイズは無反応でワルドはそれを肯定の意思と受け取った。 だが、一つある事に気付いたルイズがワルドに問う。 「………プロシュートは?」 「彼なら今頃イーグル号に乗ってるところさ」 それを聞いた瞬間ルイズの心にさらに影が差す。 あれだけ『今のオレの任務はオメーの護衛だ』と言っていたプロシュートが自分を置いて先にトリステインに帰る。 (何時までたっても『覚悟』ができない自分に対して呆れ見捨てられたんだ……) そう思いさらに自暴自棄な気持ちが心を支配した。 「では、式を始める 新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズは頷き、今度はルイズに視線を移すが当のルイズはハイウェイ・トゥ・ヘルが発現してもおかしくない状態だ。 そんな、状態でウェールズやワルドの声がマトモに聞こえるはずはなかった。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と誓いの詔をウェールズが読み上げる段階になってようやく結婚式をやっているという事に気付いた。 相手は、幼い頃からこの時をぼんやりと想像し憧れていた頼もしいワルド。 その想像が今、現実のものとなろうとしている。 ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるだろう。 でも、それならばどうして、こんなに心に迷いがあるのだろう。 そう思い、宿屋でワルドに結婚を申し込まれた事をプロシュートに相談した事を思い出した。 どうして自分は、プロシュートにそれを相談したのだろうかと思う。 (自分で決められずに他人に決めて欲しかったからだ) なぜ決められなかったか。その答えはスデに自分が知っている。 (肝心な時に『覚悟』ができていなかったからだ) プロシュートがよく言っている言葉を借りれば自分は『マンモーニ』だという事だ。 そして、その覚悟の意味を知っているであろうプロシュートは自分から離れていった。 「兄貴ィィィ起きてくれよォーーー」 壁に打ち付けられ体中に傷を作り血に塗れたプロシュートのが辛うじて握っていたデルフリンガーが己の主の名…もとい敬称を呼ぶが返事は無い。 「『ガンダールヴ』の事を思い出せそうなのに兄貴が死んだら意味がねぇだろうがよォーーー」 だが、それに答えるべき主は沈黙したままだった。 ……… ……………… ……………………………… 気が付くとさっきまでとは別の場所を歩いていた。 見覚えが無い場所ではない。いや…見覚えが無いどころかよく知っている場所 一定のリズムで規則正しく流れる音。自分が召喚される前居た『ヴェネツィア超特急』の中だ。 無意識の内に車両を進むと、一人の男が釣竿を持ってそこに居た。列車に釣竿、ミスマッチもいいとこな組み合わせだがそいつの事はよく知っている。 「ペッシかッ!」 しかし、ペッシはそれに答えずに何かを叫んでいる。 「まさかッ!この糸から墜落した一人分の『体重』っていうのはッ!うっ嘘だッ! う…嘘だ!嘘だッ!あ…兄貴がッ!ま…まさかッ!オ…オレのプロシュート兄貴がッ!う…嘘だ!」 ペッシが床に蹲りパニクって泣き始める 「どうしよう~どうしよう~あ…兄貴がう…嘘だ!!オ…オレどうすれば……? う…ううう…うう~~~そんなぁああああ…亀の中のヤツらも、でっ出てくる!ど…どうしよう~オ…オレ」 『マンモーニ』、その言葉に相応しいうろたえ様だ。当然そんな弟分にする事はただ一つ。 「オレがさっき言った事がまだ分かんねーのかッ!?ママっ子野郎のペッシ!!」 その言葉と同時にペッシの顔面に思いっきり蹴りをブチ込む。それを受けたペッシは吹っ飛びいつもの説教に突入するはずだった。 だが、それは虚空を蹴る。 「なん…だと…!?」 もう一度同じようにして蹴り上げる。だが同じだ。 さっきと同じように空を蹴るだけだ。いや、ペッシには当たっている。当たっているが、何事もなかったかのように『通り抜けて』いる。 「も…もうダメだあああああ」 「なんだパニクってらあ~~~こいつマンモーニだな~ちェッ!」 誰かにまでマンモーニと言われるペッシだがその声の主は老化が解けた乗客だった。 そこでプロシュートが理解をする。自分が居なくなった事により老化が解除された列車だという事を。 そこで全ての光景が途絶え闇になり自分がどこで、何をしていたかを思い出す。 「あの野郎にやられてくたばってるってわけか…」 こうして、考えることができるという事は恐らくまだ生きてるのだろうとそう検討を付ける。 断崖に置かれた樽と同じ状況だ。少しでも押せば谷底に、引き戻せば手元に戻る。 そして、出した結論は一つだった。 「ったく…情けねーなぁおい?何が『腑抜け野郎』だ?誰が『マンモーニ』だ? オレがここで覚悟見せねーと…この先オレがペッシにマンモーニって言われちまうじゃあねーか!!」 その言葉と同時にどこからか 「兄貴ィィィィィィィイイイイイイイ」 と聞こえたような気がし意識が光に包まれた。 「兄貴ィーーーー!」 「ペッ…いやオメーか」 デルフリンガーを杖代わりにして立ち上がる。 状態は最悪に近い。左脚にヒビが入り、全身打撲。おまけに頭も打っていてまだ視界がボヤけている。 「チッ…左目が妙だな…」 「そりゃああれだけ、やられればな」 デルフリンガーは頭を打ったせいだと言うが、それが右目と左目で微妙に違っている。だが、まだその違いに気付けないでいた。 「新婦?」 妙な様子に気付いたウェールズがルイズを見ている。思考の渦からそれに気付いたルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかい?初めての時は事がなんであれ緊張するものだからね」 緊張…などではない。自分は一人では何も決められない『マンモーニ』だ。 だからこそ、今ワルド…いや誰かと結婚する事などできない そう思い、深く深呼吸をし生涯初めての『真の覚悟』を決めウェールズの言葉の途中首を横に振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んむ。ルイズはワルドに向き直り、悲しくも何かを決意した顔で再び首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 ワルドがルイズの目を見るが、その視線は反らさない。 「日が悪いなら、改めて……」 「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」 声そのものは小さいが、その言葉には確かに『決意』と『覚悟』が込められていた。 その言葉にウェールズが首を捻る。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二人には大変失礼を致すことになりますが…わたくしはこの結婚を望みません!」 その瞬間、ワルドの顔に朱が差し、ウェールズは残念そうにワルドに告げた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 だが、ワルドはウェールズを無視しルイズに詰め寄りその手を取る。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がないッ!」 「ごめんなさいワルド。確かに憧れてた、恋もしてたかもしれない。でも…わたし自身がまだ結婚なんてできる段階じゃない」 ワルドがルイズの両肩を掴み熱っぽい口調で語りだし、目が爬虫類を思わせるような冷たい目に変わった。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 人格が入れ替わった…そう思えるほどに豹変したワルドに脅えながら何とか首を振る。 「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」 プロシュートが怒っている所を見て怖いと思うことはあったが恐ろしいと思うことは無かった。 あいつが人に対して本気で怒る時は必ず相手に何らかの原因があったからだ。 だけど、このワルドは違う…! 「ルイズ!宿屋で話した事を忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう!君がまだ自分で気付いていないだけだ!その才能に!」 この感情は…恐怖そのものだ。目の前のワルドはルイズが知っているワルドではない。 それだけに、今のワルドが無性に恐ろしかった。 「子爵…君はフラれたのだ。ここはいさぎよく……」 「黙っていろッ!!」 そう叫ぶと再びルイズの手をヘビが獲物に絡みつくがの如く両の手で握る。 「君の才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは『ゼロ』よ!そんな才能のあるメイジなんかじゃあないわ」 「何度も言っている!自分で気付いていないだけだ!」 「あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという在りもしない魔法の才能だけ… そんな理由で結婚しようだなんてこんな侮辱はないわ!そんな結婚…たとえ死んでも嫌よ」 ルイズがワルドの手を振りほどこうと暴れるが離れない、尋常ならざる力で握られていた。 見かねたウェールズがワルドの肩に手を置き、二人を引き離そうとするが突き飛ばされる。 ウェールズが立ち上がると同時に杖を引き抜く。 「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 その段階になってようやくルイズから手を離すが、その顔はどこまでも優しい、『偽善』で固められた顔だった。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「嫌よ…誰があなたと結婚なんかするもんですか…!」 「ふぅ…この旅で君の気持ちを掴むため随分と努力をしたんだが…仕方あるまい。目的の一つは諦めよう。」 「目…的…?」 頭に『理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!』という幻聴が聞こえる。 「まず一つは君だ。ルイズ、君を手に入れる事。しかし、これは果たせないようだ」 「…当然よ!」 「二つ目は…君が受け取ったアンリエッタの手紙」 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目…」 アンリエッタの手紙という言葉で全てを理解し杖をワルドに向け詠唱を始めるが それよりも、ワルドの方が閃光の如く杖を引き抜きウェールズの心臓を青白く光る杖で的確に貫いた。 「き…貴様…『レコン…キスタ』…」 ウェールズの口から血が溢れる。誰がどう見ても致命傷だった。 「三つ目…貴様の命だ」 「貴族派…!アルビオンの貴族派だったのねワルド!」 「Exactly。いかにも僕はアルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」 「トリステインの貴族のあたながどうして!」 「答える必要は無いな…これから君はウェールズや…プロシュートだったか?彼らの下に逝くのだから」 その言葉にプロシュートの名が入っている事に衝撃を受ける。 ウェールズと同時に言われたという事はスデにプロシュートもワルドに殺されたという事だ…! 杖を握ろうとしたがそれをあえなくワルドに弾き飛ばされる。 「助けて…」 蒼白になり後ずさる。立って逃げようとしても腰が抜けて立てないでいるが、その様子をみてワルドが首を振り『ウィンド・ブレイク』で吹き飛ばす。 「もう遅い…だから共に世界を手に入れようと言ったではないか…鳴かぬなら殺してしまえと言うだろう?なぁ…ルイズ…」 壁に叩き付けられ床に転がる。呻き声をあげ泣き、もうこの世にいないであろう使い魔に助けを求めた。 「助けて……お願い……」 そう繰り返し助けを求めるが、ワルドは愉しそうに呪文を唱え始めたが扉の外から足音と声が聞こえてきた。 「『殺す』…そんな言葉は使う必要はねーんだ…」 声と足音が大きくなる。そしてその声はルイズにとって聞きなれたものだ。 「なぜならオレやオレ達の仲間が…その言葉を頭の中に思い浮かべた時には…」 次の瞬間ドアがブチ破られ、ドアの破片が飛びそれをワルドが回避する。 「実際に相手を殺っちまってもうスデに終わっちまってるからだ…!」 慌てるわけでもなく、怒りをもっているわけでもなく、いつもの調子で危険極まりない言葉を吐き出し歩くのは全身傷だらけになったプロシュートだ。 「…貴様!」 「プロシュート…!」 二人が驚愕の目で傷だらけのプロシュートを見るが、ワルドの目は怒りを含み、ルイズの目は動揺を含んでいる。 「オレが昔やった事と同じ事をしたようだから忠告…しといてやる……敵の頭に銃弾をブチ込んだとしても…生死の確認ぐらいしておくんだったな…」 列車内でミスタに直触りを仕掛け、拳銃を奪い頭に3発の銃弾をブチ込み死んだものと思い亀に向かったが どういうわけか脳天に弾をブチ込んだはずの『ミスタのスタンド』が『氷』を持って『ブチャラティ』の所に居た。 生死さえキッチリ確認していれば今頃は、ブチャラティ達は全滅しボスの娘を奪っているはずだったのだ。 「…ったく、どっちの世界もマンモーニだな…!なに泣いてやがる」 ギャングであるペッシとそうでないルイズを比べるのもどうかと思うがまぁ似たようなものとして扱っているプロシュートには関係無い。 「生きてるなら…早く来なさいよ…!」 そう叫ぶが顔の方は泣き顔のそれだ。 「さっきのお前の魔法…本当にオシマイかと思ったよ…ワルド…今までお前の事『老け顔のヒゲ』だなんて思っていたが 撤回するよ…無礼な事だったな…お前は信頼を裏切れる男だ…『婚約者の信頼』を含めてな…いやマジにおそれいったよ」 淡々とした口調だがその言葉にははっきりとした意思がある。そのままゆっくりとワルドに近付くが『ウィンド・ブレイク』が飛び吹き飛ばされ壁に激突する。 だが、それでも何事も無かったかのように立ち上がり再びワルドに近付く。 「オメーは『ゲス野郎』なんだよワルド…裏切ったんだ…組織のようにな…!分かるか?え?オレの言ってる事…」 「信じるのはそちらの勝手だ。勝手に信じたものを利用して何が悪い?」 また『ウィンド・ブレイク』が飛びまた吹き飛ばされそうになるが、今度はデルフリンガーを床に打ち込みスタンドパワー全開で支え飛ばされないようにする。 「どうした『ガンダールヴ』!動きが鈍いぞ?今にも死にそうではないか。攻撃しないと僕を倒せないぞ?せいぜい僕を楽しませてくれるんだな」 だが、その言葉にも動じずその目はワルドのみを見据え歩みを進める。その歩みには一片に迷いなど無い。 「…分かったよ兄貴!兄貴がいつも言っている『覚悟』ってのが俺にも言葉でなく『心』で理解できたッ!!」 三度『ウィンド・ブレイク』が飛ぶがデルフリンガーが自分を前に突き出すように叫びそれに応じるかのように手を前に突き出す。 「無駄よ!無駄無駄ァァアアア!剣などでは風は受けることはできん!」 風がプロシュートを飛ばそうとした時デルフリンガーの刀身が光だし風を全て吸い込んだ。 「魔法を吸い込むと思ったなら兄貴…!スデに行動は終わっているんだな…!」 「そんな事ができるなら最初からやりやがれ…!」 「六千年前も昔に『ガンダールヴ』に握られて以来だからてんで忘れてたんだよ でも、これからは任せてくれていいぜ兄貴ィ!ちゃちは魔法は俺が全部『吸い込んだ』からよ!」 「…なるほど。私の『ライトニング・クラウド』を受けて生きているのはおかしいと思っていたが… その剣のおかげか。それならばこちらも本気を出そう。何故風が最強と呼ばれるのか、その由縁を教育してやる」 プロシュートとルイズはそれを見据えたまま動かないでいる。前者はあえて動かないでいるが、後者は動けないでいる。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 そうしてワルドが分裂するが、今度は1体だけではなく4体…計5体のワルドがプロシュートと相対した。 「また同じか芸がねーな」 分身が懐から仮面を取り出し顔に付ける。 「『エア・ニードル』…杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込む事は不可能よッ!!」 それを見てプロシュートがルイズの方に向かい話し始める。ワルドx5は完全に余裕の態度でそれを見ている。 「なに…ボケっとして…やがる。正念場だぜ…ルイズよォーー! フーケの時の覚悟見せやがれ…!オレが…突っ込むからよ…オメーは爆発を起こせ。自信を持て…いいなッ!」 「無茶よ!そんな…!それに、そんな怪我してるのに巻き添え受けたらどうするのよ…!」 それを聞かずに、ワルドの本体へと歩き出す。 後ろ取られないようにワルドへ向かう。 剣とグレイトフル・デッドで受け流すが、相手は五体。後ろを取られないようにしているとはいえ入れ替わるように分身と本体が攻撃を仕掛けてくる。 腕に一撃を受ける。だが止まらない。 脇腹を杖が掠め血が流れ出る。だが止まらない。 大腿部に『エア・ニードル』が突き刺さる。だがそれでも止まらない。止まろうとしない。 急所に受ける攻撃だけを受け流し、後は全て体で受け止めている。 傍から見れば一方的に攻撃を受けているだけに見えるが、ジリジリと後退しているのはワルドと分身の方だ。 「こ…こいつ!何故だ…?何故、貴様を使い魔として使役しているあの高慢なルイズのために命を捨てる!?」 「『恩には恩を…仇には仇を…』それがオレ達チームのリーダーの流儀だ… だから…オレもそれに従っている……オレの命を救ったという借りを返さねーってのは…オレがチームの流儀を裏切る…って事になるからな…!」 「兄貴!それだ!心を振るわせられればなんでもいい!『ガンダルーヴ』もそうやって力を溜めていた!」 それを聞いた瞬間ルイズに衝撃が走る。 プロシュートは自分の魔法を信頼してくれているからあんな無謀な行為をしてくれている。 ここで自分が何もしないという事はその信頼を裏切る…つまりワルドと同じ事をするという事だ…! 「まだ『覚悟』っていうのはよく分からない…けど!わたしを信頼してくれているのは『心』で理解できたわ!」 その声と共に杖を本体と分身に向け、詠唱の短いコモンマジックを連発する。 狙いはプロシュート以外の全ての物だ。 一発が分身に直撃し消し飛ばす。 それでも爆発は止まらない。残りは命中はしていないが爆風がワルドと分身を容赦なく襲う。当然突っ込んでいるプロシュートにもそれは襲いかかる。 「…くッ!邪魔だ!!」 3体の分身がルイズに襲い掛かる。だがそれでもルイズは魔法を止めようとはしない。最後まで自分の使い魔を信頼すると決めたからだ。 『エア・ニードル』がルイズを突き刺そうと飛び掛った瞬間…分身の動きが急激に鈍くなった。 「グレイト…フル・デッド…」 そう呟くように言う本体のワルドへと突き進む。 「こ…これは…!?貴様…まさか…私や貴族達を…道連れに死ぬ気か…!?」 「一瞬だ…一瞬老化させて掴めればそれでいい。爆風の熱で温まってる今なら…オメーだけよく老化するだろうよォーーーーーー!」 それだけ言うとワルドに突き進む。速い、満身創痍な状態とは思えない速さだ。 ワルドの左腕を右腕で掴むと老化を解除する。この程度の時間ならば城の連中に効果はあまり及んでいないはずだ。 「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」 だが、そこに広域老化が解除され動きが元に戻った分身の杖が振り下ろされ… 空中に『腕が舞った』 ←To be continued ゼロの兄貴-23 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1801.html
今、城下町では王女アンリエッタが大変な人気を集めている。いや、もはや王女ではなく女王アンリエッタだったな。 なぜ女王が人気を集めているのか?それはこの前の戦いで数で勝るアルビオン軍を打ち破ったからだという。そのおかげで『聖女』と崇めたてられるほどだ。 アンリエッタは女王となったため、当然のごとくゲルマニア皇帝との婚約は解消された。だからといって同盟も解消されるわけではないらしい。 何故かはよく聞いてないので知らないが、私には特に関係のないことだろう。さて、なぜ今こんなことを考えているのか、それはこれから聖女アンリエッタに会うからだ。 今朝、アンリエッタからの使者が私たち(正確に言えばルイズ)のもとへやってきた。用件は不明。ただアンリエッタが呼んでいる、とだけしかわからない。 そしてルイズがこれを断るはずも無く、私たち(もちろんデルフは連れて行く)は用意してあった馬車に乗って王宮にやってきたのだ。 やれやれ、今日もシエスタに文字を教えてもらう予定だったのにこんなことになるとは。シエスタにこのことを言う暇も無かったな。帰ったら一応謝っておこう。 一言謝ればシエスタはどうせ許してくれるに違いない。……多分だけどな。 それにしても一体どんな用件なのだろうか?やはり『虚無』のことだろうか?というかそれ以外に考えられない。きっとルイズもそう思っていることだろう。 使者に案内され王宮を歩いていると、やがてある部屋の前に到着した。扉の前には護衛のような人間が控えている。きっとここにアンリエッタがいるのだろう。 「陛下。お越しになられました」 「通して」 控えていた人間が部屋の扉を開く。開かれた扉の先には、アルビオンに行く原因を作ったアンリエッタがいた。当然といえば当然だが。 ルイズは一歩部屋に入り恭しく頭を下げる。私もそれに習い、帽子を外し頭を下げる。下げなかったらルイズに色々言われそうだからな。 「ルイズ、ああ、ルイズ!」 アンリエッタは嬉しそうな声を上げながら、ルイズに駆け寄りそのままルイズを抱きしめる。抱きしめられたルイズは頭を下げたままだ。 なので私も頭を下げ続ける。 「姫さま……、いえ、もう陛下とお呼びせねばいけませんね」 「そのような他人行儀を申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。あなたはわたくしから、最愛のおともだちを取り上げてしまうつもりなの?」 その言葉にルイズは顔を上げホッと一息ついたような顔でアンリエッタを見詰める。私も頭を上げる。さすがに帽子は被らない。 「ならばいつものように、姫さまとお呼びいたしますわ」 「そうしてちょうだい。ああルイズ、女王になんてなるんじゃなかったわ。退屈は二倍。窮屈は三倍。そして気苦労は十倍よ」 アンリエッタは心底つまらなそうにそう呟いた。やれやれだ。王族ならそれを耐え切れ。それが義務なんだから。 それに最愛のおともだちなら、わざわざおともだちを死地に行かせるようなことはしないでほしい。死に掛けたんだぞ。私が。 「このたびの戦勝のお祝いを、言上させてくださいまし」 暫らくの沈黙ののち、ルイズはアンリエッタ向かってそんなことを言った。女王が何も話さないので、一応当たり障りのない話題を振ってみたのだろう。 この話題にアンリエッタは意外な反応を見せた。ルイズの手を握ったのだ。そして、この勝利はルイズのおかげだと言い切った。 ルイズはハッとした表情でアンリエッタを見つめ、私は何の反応も示さなかった。どうせバレるのはわかっていたんだから驚く必要も無い。 「わたくしに隠し事はしなくても結構よ。ルイズ」 ルイズはアンリエッタにそう言われながらもまだとぼけようとしたが、アンリエッタが渡した羊皮紙を見て観念した。羊皮紙には調査報告が書いてあるのだろう。 そんなことを思いながら二人を見つめていたが、不意にアンリエッタがこちらを向いてきたので少し動揺する。もちろん表には出さない。一体私に何の用があるのだろうか? 「異国の飛行機械を操り、敵の竜騎士隊を誘導し撃滅したとか。厚く御礼申し上げますわ」 「身に余る光栄です」 アンリエッタの言葉に頭を下げる。だが、竜騎士隊を撃滅ってのは過剰だな。6騎しか殺してないのに。それに礼を言うより報酬をくれたほうが嬉しい。できれば現金だ。 「あなたは救国の英雄ですわ。できたらあなたを貴族にしてさしあげたいぐらいだけど……。あなたに爵位をさずけるわけには参りませんの」 「当然ですわ。使い魔を貴族にするだなんて」 五月蠅い。化け物は黙ってろ。しかし爵位か。できるものならほしいものだ。そうすればルイズのもとにいなくてもいい暮らしができる。 ルイズを殺した場合のデメリットが一つ減るわけだ。 その後、アンリエッタは私たちを褒め称えた。ルイズは小国を与えられ大公の位を授けてもいいくらいだとかなんとか。 正直よくわからないが、すげえ地位を与えてもいいことらしいな。そんなことを言われルイズは恐縮した様子で謙遜するが、 「あの光はあなたなのでしょう?ルイズ。城下では奇跡の光だ、など噂されておりますが、わたくしは奇跡など信じませぬ。 あの光が膨れ上がった場所に、あなたたちが乗った飛行機械は飛んでいた。あれはあなたなのでしょう?」 そんなふうに言ってくるのだ。否定する暇すら与えないとはこのことだな。 ルイズはさすがにもう否定するのは無駄だと諦めたのだろう。始祖の祈祷書のことを、『虚無』のことを、あの空で起こったことを話し始めた。 その話を聞くとアンリエッタは、こんなことを話し始めた。始祖ブリミルは三人の子に王家を作らせ、それぞれに指輪と秘宝を遺したという。 そしてトリステインに伝わるのが『水』のルビーと始祖の祈祷書らしいのだ。これだけ聞くと、アンリエッタはかなりありえないことをしたんじゃないか? 王家に代々伝わるものを簡単に人にあげたんだぜ?しかも『水』のルビーは売り払ってもいいとか言っていたはずだ。 無計画なのか、それとも迷信と思って信じてなかったのか。多分両方かもな。 それと、もう一つ驚くべきことがわかった。始祖の力、つまり『虚無』は王家にあらわれると、王家の間では言い伝えられてきたらしい。 つまり、『虚無』を使えるルイズは王家の血を引いてるってことだ。それはアンリエッタの口からもはっきりと明言された。 ラ・ヴァリエール公爵家の祖は、王の庶子。なればこその公爵家だってな。いやいや、本気で驚いたね。 身分が高いとは思っていたがまさか王家の血を引いているとは。そうなると殺した後は私が考えている以上に追及されるよな。絶対に。 ルイズはルイズで自分が王家の血なんて引いていないと思っていたらしく、結構驚いていた。 「では……、間違いなくわたしは『虚無』の担い手なのですか?」 「そう考えるのが、正しいようね。これであなたに、勲章や恩賞を授けることができなくなった理由はわかるわね?ルイズ」 確かに、もしルイズに恩賞を与えればルイズの功績は白日の下に晒されるだろう。それは『虚無』が白日に晒されるのと同じだ。 『虚無』の力欲しさにルイズは様々な輩に狙われるに違いない。 「ルイズ、誰にもその力のことは話してはなりません。これはわたくしと、あなたとの秘密よ」 それが妥当だろうな。というか二度と使うなくらいは言ってほしい。ルイズもアンリエッタの言葉ならきちんと聞いて以後使わなくなるだろうからな。 そしたら私は万々歳だ。恐怖が完全に拭い去られるわけではないが、随分と減ること間違いない。 アンリエッタの言葉にルイズはなにやら考えているような態度で口を噤んでいた。しかし、何かを決めたような表情をするとルイズがゆっくりと口を開き始める。 それはアンリエッタに『虚無』を捧げたいというものだった。それに対してのアンリエッタの答えは、 「いえ……、いいのです。あなたはその力のことを一刻も早く忘れなさい。二度と使ってはなりませぬ」 というものだった。私の言ってほしいことをずばりと言ってくれたから、このときばかりは女王を見直したね。このときだけだけどな。 しかしルイズは、この力はアンリエッタを助けるために神様が授けてくれたものだとか言って聞きやしない。 さらに自分がいかに『虚無』をアンリエッタに捧げたいかを力説までし始めた。そして『虚無』を受け取ってくれないなら杖をアンリエッタに返すという。 『虚無』を捧げられることを拒否していたアンリエッタだが、そんなことを言われて心打たれたらしく、二人はお互いを抱きしめあった。つまり受け取るということだ。 「これからも、わたくしの力になってくれるというのねルイズ」 「当然ですわ、姫さま」 どうやら三文芝居はこれで終わりらしい。 「ならば、あの『始祖の祈祷書』はあなたに授けましょう。しかしルイズ、これだけは約束して。決して『虚無』の使い手ということを、口外しませんように。 また、みだりに使用してはなりません」 「かしこまりました」 私的には、わたくしが使ってもいいと言うまで使うな、くらい言ってほしいんだがな。 そんなみだりに使用するなと言っても、ルイズなら感情に任せて周りを気にせず使いかねん。結局、私の恐怖心はこのままというわけだ。 「これから、あなたはわたくし直属の女官ということに致します」 アンリエッタはルイズにそう言うと、羊皮紙になにやら書き花押をつける。 それはアンリエッタ曰く、王宮を含む国内外へのあらゆる場所への通行、警察権を含む公的機関の使用を認めた正式な許可証らしい。 その許可証がルイズに手渡される。ルイズはこれで『虚無』という力だけでなく、強大な権力まで手に入れたことになる。どれだけ力をつけるのだろうか? 化け物がこれ以上の化け物になるのかと思うと憂鬱になりそうだ。これ以上調子付かなきゃいいんだが…… 「あなたにしか解決できない事件がもちあがったら、必ずや相談いたします。表向きは、これまでどおり魔法学院の生徒としてふるまってちょうだい。 まあ言わずともあなたなら、きっとうまくやってくれるわね」 アンリエッタはルイズのそう語りかけると、また私の方へ向き直る。今度はなんだ?褒めるなら報酬で示してほしい。 アンリエッタは体中のポケットを探り始め宝石や金貨を取り出した。そして私に近づいてくると私の帽子にそれらを入れてくる。 ……マジかよ。 「これからもルイズを…・・・、わたくしの大事なおともだちをよろしくお願いしますわね。使い魔さん」 マジ?これマジィ!?本物か!?本物だよな!?これって俺にくれるってことだよな!?マジで報酬をくれるのか!? 帽子に入れられた宝石や金貨をマジマジと見つめる。 「え、これ……、私に、ですか?」 「ええ。是非受け取ってくださいな。ほんとうならあなたを『シュヴァリエ』に叙さねばならぬのに、それが適わぬ無力な女王のせめてもの感謝の気持ちです。 あなたはわたくしと祖国に忠誠を示してくださいました。報いるところがなければなりませぬ」 別に忠誠なんてしてないし、ここは祖国でもない。さんざん巻き込まれた結果、ここいるだけだ。だがそんなものはどうでもいい。 今注目するべきものはこの金貨と宝石だ。俺の、俺だけの金!俺が自由に好き勝手できる金だ!まさか化け物といることでこんな恩恵があるとは思っても見なかったぞ! いや、働いたら報酬があるってのは当然なんだけどな。幽霊だって報酬がもらえるんだから。 「ありがたく受け取らせてもらいます」 アンリエッタに頭を下げ、一応感謝の意を表しておく。このほうが好感がいいだろう。また感謝の気持ちがほしいからな。なるべく好印象になるように心掛けなければ。 そして私とルイズはアンリエッタに別れを告げ王宮を出た。……帰りの馬車は用意されていなかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1144.html
「…ッ!…が…ッ!!」 「…ふにゃ……うるさぁ~~い…!」 明け方妙に音がするので寝起きが壊滅的に悪いルイズですら目を覚まし音源の方向を見る。…見たのだが、ヤバイものを見た。 「グレイトフル・デッ…」 「ちょ、ちょっと!なに寝ながら危ない事口走ってんのよ!!」 「……クソッ…!またか…」 広域老化発動ギリギリで起きたプロシュートが頭を押さえながら壁に背を預ける。 全身から嫌な汗が流れ気分も最悪というところだ。 「凄いうなされてたけど…大丈夫なの?」 「ああ…」 生返事はするものの、最近例の夢を見る頻度がかなり高くなってきていてヤバかった。 (あいつらは地獄から人を呼びつけるようなタマじゃあねぇんだがな…) 原因の検討は付いているがその手段がいまのところ存在しないのが問題だ。 「こいつはダメだな…」 結果がどうあれ、イタリアに戻りそれを己の目で確かめないことには、この夢は消えないであろうという事も。 「…邪魔したみてーだな。寝直す気にもなれねぇ…外に出てくる」 「ま、待ちな…!」 それを言い終わる前に先に外に出られた。 「もう…最近調子悪そうだし…もしかして、病気にでも罹ったんじゃないんでしょうね…」 「俺が見る限り、どっちかっつーと精神面みたいだな」 鞘から少しだけ刀身を出したデルフリンガーが答える。 「精神面?プロシュートが?…ダメ、とてもじゃないけど想像できないわ」 「んーそういう柔な理由じゃなくて、イタリアってとこにスゲー重要なやり残した事があるんだろうな」 イタリアと聞いて思い当たる事はあった。 「んで、それが夢か何かに出てきてあんな風になってるってわけだ」 「そういえば…ラ・ロシェールの宿屋で仲間が命を賭けて闘ってるって言ってた」 「そりゃあ戻りてぇだろうなぁ…」 イタリアに戻る…その言葉に戸惑う。 今のところ戻る手段は見付かっていないが、見付かればプロシュートはどうするのだろうか。 迷わずその手段を用いてイタリアに戻るのか…それともここに残り使い魔としていてくれるのか。 今のルイズの心情は非情に複雑だった。 フーケやワルドに殺されそうになった時も自分が見失っていた道を照らし出してくれたような気がしたし シルフィードの上でプロシュートが気を失って自分に向けて倒れてきた時も何故か安心感があった。 確かに、かっこいいところはある。ボロボロになりながらもワルドから助けてくれた時や、自分の魔法を信頼してくれた所も。 「…もしかして兄貴に惚れたのかぶらばァッ!」 デルフリンガーの刀身目掛け爆発を起こしとりあえず黙らせる。 「そ、そんなんじゃないわよ!たた、確かに頼りになる所もあるし何回も助けてもらったけど!考え方が妙に物騒なのが問題よね…誰にでも遠慮しないし」 初対面のキュルケや、今は亡きギーシュ。そして姫様にすら容赦しなかった。 「メイドの娘っ子と馬で出かけた時に俺をハムに刺しといてよく言うわらば!」 「だ~から!好きとかそんなんじゃないつってんでしょ!」 「…じゃあなんなんだ?」 「分からないけど…こう…」 「こう?」 「結構頼りになるし…『成長しろ』…とか言ってくれるし……年上の…兄妹…みたいな…」 「あー、つまりアレか。『お兄様』って呼びたいわけダッバァァァァアア!」 三回目の爆破によりデルフリンガーの口を封じる。 「し、知らないわよ!わたしだってエレオノール姉様とちぃねえ様しか姉妹が居ないんだから!!」 そう叫びベッドに潜り込んだが心臓の鼓動音がやたら大きく聞こえて中々寝付けなかった。 (イテェ…本気で折れるかと思った…しかしまぁ…俺も『兄貴』って呼んでるから分からないでもねぇが) 「戻る方法が見付かってるわけでもなし…八方塞ってやつか」 日が出て明るくなってきた頃、プロシュートが一人庭を歩いている。 「ジジイが30年前に会ったヤツは…どうやってここに来たんだ…? 使い魔としてなら本体ってわけじゃねぇが呼び出したヤツも……いや、オレが良い例だな。常に行動を共にしてるとは限らねぇ」 そうして思考の渦に漬かりきっていたので後ろから近付く気配に気付けなかった。 「わっ!」 「ハッ!?………向こうじゃ攻撃されてんぜ…オメー」 「この前、驚かされたお返しです」 後ろからシエスタが大声で驚かすという古典的な手段だったが、一瞬列車内でブチャラティに奇襲された事を思い出し攻撃しかけそうになった。 が、スタンド使いは居ないと認識していため何とか踏みとどまる。 「で、わざわざオレを驚かせるためだけに、こんな朝っぱらからきたってわけか?」 「あ!いえ…お洗濯物を洗いに行くところでお見かけしたので…その、この前のお礼もしてませんでしたし」 「礼される事をした覚えはねーな。アレはモット伯と護衛のメイジの問題なんだからよ…」 その言葉には『バレるからあまり話すな』という意味が含まれているのだが、そこは一般人であるシエスタ。謙遜してるようにしか受け取れない。 「そんな!助けていただいたのは事実ですし、もう少し遅ければ………」 モット伯に胸を揉まれていたことを思い出すと赤くなり口ごもると同時にゾッとした。後2~3分遅ければ洒落になっていなかっただろうから。 俯き加減にもじもじしながら何か小さく言っているが、このまま待っても時間がかかりそうだったし何よりまぁ言いたい事もあったのでとりあえず軽く一発叩く事にした。 「大体だ、連れてかれる三日前にそういう事があんならオレかルイズあたりに言ってりゃもっと楽に済んでんだよ。人質が居ると居ないとでは大分違ってくるんだからな…」 かなり綱渡り的任務だったはずだ。 最初の時点で、衛兵が金に釣られなければその時点で失敗。 モット伯が部下の顔を全て把握していれば、魔法を使われか叫ばれるなりして他の連中にこちらの存在がバレた可能性もある。 そして、殺害ではなく捕獲命令を出していれば老化させていたとはいえ、アレがモット伯だとバレるかもしれなかった。 正直、よくこうも上手くいったものだと思う。 本来、攻めでこそ本領が発揮される能力であり、こういう守り・奪還に適した能力ではないのだ。 「……す、すいません…」 言いながら恐る恐る顔を上げたが、予想に反してプロシュートの顔は苦笑いだった。 「……怒ってないんですか?」 「これがペッシならブン殴ってるとこだが…まぁオメーはギャングでもメイジでもねーしな。今ので勘弁しといてやるよ」 「す、すいません」 「……もう一発か」 「へ?あの…?うひゃぁぁぁぁ」 「いたた…それで、その…お礼なんですが」 「…オメーも結構しぶといな」 シカトして戻っちまおーかとも思ったが目を見て止めた。 何かに似てると思ったが…借金だ。それも金利がバカ高いやつ。 借金なら色々な手で揉み消せない事も無いが礼を揉み消すというのもなんなので早い段階で清算しておく方が良策だと判断した。 (後にすればするほど膨れ上がって収拾が付かなくなるタイプだな…) 「そうだな…この前オレんとこの故郷の話したからオメーのとこの話聞かせてくれりゃあそれでいい」 「わたしの故郷ですか?タルブの村っていって、ここから、そうですね、馬で三日ぐらいかな…ラ・ロシェールの向こうです」 「三日?えらく遠いな」 「それでも、もっと遠くから来ている方もいますし。何も無い、辺鄙な村ですけど… とっても広い綺麗な草原があって、地平線のずっと向こうまで季節ごとのお花の海が続いて、今頃とっても綺麗だろうな…」 (ダメだな…いいとこ麦畑しか浮かばねぇ) 花畑に立つ暗殺者というものほど矛盾した存在はあるまいと失笑気味だが、自分自身が常に死の中に居る。 生き方的な問題だけではなく、能力的な問題だ。生物なら全て無差別に朽ち果てさせる能力。 花畑なぞに入っても自分の周辺だけその花が枯れ果てている姿を想像し思わず自嘲的な笑みが零れた。 それを見たシエスタだが、その笑みが普通に微笑んでいるようにしか捕らえられずさらに話を続ける。 「この前、お話してくれた…そう!ひこうきとやらで、あのお花の上を飛んでみたいんです」 「勘違いしてるようだが言うが、鳥程自由には飛べねーからな」 目を輝かせるようにして思い出話に浸っているシエスタだが 村に来て欲しい事、草原を見せたい事、ヨシェナヴェなる料理がある事。まぁこれはよかった。 「………プロシュートさんはわたし達に『可能性』をみせてくれたから」 「可能性を見せた…?くだらねぇな…」 「く、くだらなくなんかないです!わたし達なんのかんの言って、貴族の人達に怯えて暮らしてて そうじゃない人がいるってことが、なんだか自分の事みたいに嬉しくて…わたしだけじゃなく厨房の皆もそう言ってます!」 「可能性ってのは、自分自身ががそこに向かい成長しようと意志さえあればいくらでもあんだよ。他人の成長を見ても自分の可能性ってのは掴めるもんじゃあねぇ」 同じスタンド使いがいねぇようにな。 さすがに、スタンド使い云々に関しては口に出さなかったが。 「…難しいですね」 「簡単に分かりゃあ誰も苦労しねーよ。ここのマンモーニどもも、魔法が使えるってだけで分かってねぇのが殆どだしな」 「また、今度…それを教えてくえませんか?」 これがペッシとかならギャング的覚悟を叩き込むのだが、この場合はどうしたものかと悩んだ。なので一応の答えで場を濁す事にしたのだが…それが不味かった 「オレの分かる範囲でなら…な」 肯定と受け取ったのかシエスタさんのスイッチが入ったご様子。 「是非お願いします!あ…でも、いきなり男の人なんか連れていったら、家族の皆が驚いてしまうわ。どうしよう… そ、そうだ。旦那様よって言えば…け、結婚するからって言えば皆、喜ぶわ。母様も父様も妹や弟たちも……」 ……… …………… (シエスタは…『壊れた』のか…?いや違う…ッ!こいつは『素』だッ!明らかに『素』の目をしている……ッ!) 今にもシエスタの後ろに効果音とかが現れそうだったが、引き気味にそれを見ていたプロシュートに気付いて我に返って首を振る。 「あ、あはははは!ご、ごめんなさい…!そ、そんなの迷惑ですよね…あ!いけない!お洗濯物を洗いにいかないと…それじゃあ失礼します!」 「…手遅れか…トイチってとこだな」 収拾が付かなくなる前に清算を済ませるつもりだったがスデに金利が膨れ上がり手の付けられないとこまで突入している事にようやく気付いた。 まぁかなり前から手遅れなのだが、それは兄貴。 誰でも対等に扱おうとするが故に平民と貴族が区別されているここにおいては、それが類を見ない事である事に気付けてすらいない。 少し引いていたが、今はイタリアに戻るという事が最優先事項だ。 リゾット達がボスを倒しているのなら、その姿だけ見届けどこかに消える。途中脱落した自分にそれに加わる資格は無い。 だが、もしリゾット達がボスに敗れ全滅しているのなら…成すべき事は一つ。 「…考えたくはねぇが…ボスにその報いを受けさせる…ッ!」 死んだ事になっているのならば少しはボスの事も探りやすくなるはずだ。 暗殺チームの誇りと矜持に賭けて、それこそ『腕を飛ばされようが脚をもがれようが』何があろうとボスを殺す。 だが、現状は戻れる気配すら掴めていない。 「チッ…戻れる当てがねぇのにボスを殺す事なんざ考えても意味がねぇな」 そう呟き、頭を掻きながら空を見上げると、その事は一時頭の片隅に追いやり今は使い魔としての任務を果たすべきだと切り替えルイズの部屋に戻った。 そろそろルイズを叩き起こそうとドアを開けながら声をかけたのだが、反応は実に意外だったッ! 「起きろ」 「え、ちょ、ちょっと待ちn」 「珍しく起きてんのか」 特に気にした様子もなく後ろ手でドアを閉め視線を部屋に向けると…着替え途中で産まれたばかりの状態一歩手前のルイズが固まっていた。 「……ぅぁ…っぁ…ぁぁ……」 「ようやく自分でやる気になったか…まぁ今までやらなかった方がおかしい事だったんだが」 特に気にした様子も無く、デルフリンガーと新しいスーツの上着を掴むと外に出るべく固まってるルイズに背を向ける。 普通なら、まぁ見た方が焦って慌てながら後ろ向いてしどろもどろになって逆にいい感じに発展するというのが王道パターンなのだが この場合、一片の動揺すら見せず何時もと同じような扱いをしたのが『逆に』不味かったッ! もっとも、この前まで着替えさせていたというのに急に変えろというのが無理がある事なのだが。 「……み…み…みみみみ見た…見たわね…?」 「あ?この前まで着替えやらせといたマンモーニが何を今更」 気だるそうにかつどうでもいい風にそう答えたプロシュートにルイズの何かがキレかかった。 「…って…出てって!」 「今やってんだろーが…ま、自分でやる気になったんだから少しは『成長』したんだろうな。褒めといてやるよ」 この場合当然、精神的成長なのだが、キレかかっているルイズは、まぁその何だ、肉体的な意味の成長と受け取ったらしい。主に胸とか。 「……だだだ、誰の胸がすす、少ししか成長してないですってぇーーーーーーーーー!!」 「…なッ!誰もんなこたぁ言って「兄貴…そりゃ俺もそう思うが本人の前で言うのはヒデーと思うぞ」」 否定する前に空気の読めないデルフリンガーの一言。これで完全にルイズがキレた。 「で、出てってーーーーーーーーーー!!」 ドッギャァーーーーーz____ン 「なによ…見ておいて…いつもと変わりないなんて…わたしを対等に見てないってことじゃない…!」 さすがに泣きはしないが、信頼していると言われていたのに、対等に扱って貰えないという事が今のルイズにはそれが無性に悲しかった。 一方、間一髪爆破に巻き込まれる前に部屋の外に逃げたが再び部屋を追い出される事になりプロシュートがデルフリンガーを冷めた目で見ていた。 「あ、兄貴…俺なんかマズイ事言ったか…?」 「…じゃあこれからオメーがされる事を説明すんのは簡単ってわけだ…さっきオレが言ってないと言っている途中で余計な事言ったよなオメー」 「あ、兄貴ィ!ま、まさかッ!!」 ……… …………… ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ゼロのルイズ―しばらく引き篭もる事になる。 デルフリンガーパッショーネ伝統拷問ダンスを食らいしばらく鞘から出てこなくなる プロシュート兄貴ー再びフリーエージェント宣言&ザ・ニュースーツ! ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1472.html
馬小屋に着くとルイズは既に3匹の馬に鞍をつけていた。 ……おいおい。冗談だろ?ルイズが私たちの分の馬も準備しているなんて。しかしいくら目を凝らして見ても、ちゃんと3匹の馬の準備が整っている。 幻覚じゃないらしい。ルイズが自分の馬以外も用意しているなんて思わなかったな。 シエスタもそれに驚いたのか、呆然とその場に立っている。 「……なにボーっと突っ立てんのよ」 ルイズがこちらを見ながらそう言ってくる。 その言葉にようやく驚きから脱する。 驚くのも無理は無いだろう。まさか平民のために馬の準備までするほど変化しているなんて思わないじゃないか。 「す、すみません!貴族様にそのようなことをさせてしまって!」 シエスタも驚きから脱したのだろう、バスケットを地面に下ろしなかなかいい勢いで頭を下げ謝る。 頭の下げる角度が結構鋭さを感じる。いいセンスだ。 「別に。暇だったからやっただけよ。あんたに謝られる覚えはないわ」 「し、しかし……」 「わたしが謝る必要が無いっていってるんだから、謝らないで」 「……わかりました」 シエスタは本当に驚いたというような顔をしている。 安心しろ。私もだ。 「それであんたが一緒に行く平民でしょ。名前は?」 「シエスタといいます」 「そう。知ってるかもしれないけど、わたしはルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。 いつもわたしの使い魔がお世話になってるそうね」 「そ、そんな自己紹介されるなんて光栄です!そ、それに、ヨシカゲさんには私の方がお世話になっていて!」 シエスタは相当動揺しているようだ。 私にお世話になっているなんて言うぐらいだからな。 自慢じゃないが私はシエスタの世話なんて一度もしたことが無い。 いつも世話されているほうだ。 まあ、それぐらい動揺しているということなのだろう。 「そんなに恐縮されるとこっちがなんだか悪いことしてるみたいじゃない。」 「す、すみません」 「謝らなくていいっていってるでしょ。まったく。そのタルブの村ってところまで馬で3日かかるんでしょ。そんな調子じゃ息が詰まって大変よ。 だからもっと楽にしなさい」 「は、はい」 ……なんだかルイズがまともなことを言っているような気がする。 私の気のせいだろうか。 っというかいくら皇太子に何か言われたからってこんなにも変わるものだろうか? 本当にルイズはどうしちまったんだ? 「準備できてるわよね?」 「ああ」 「はい」 ルイズの言葉にシエスタと私は肯定する。 「じゃあ出発しましょう」 ルイズの号令の元、私たちは乗馬した。 学院を出発して既に数時間、道中何事もなく平和そのものだ。 ただ、私は馬に乗ることに慣れていないので少し疲れている。 シエスタもそうなのだろう、顔には少し疲労の色が見えている。 それに比べてルイズは随分と余裕な表情だ。乗馬は学院で習っているから慣れているのだろう、なかなか様になっている。 ……乗馬が様になっているだけだが、普段バカにしている奴が活躍していると少しムカつくな。 しかし、ラ・ロシェールに向かうときに比べればたいしたことはないな。 馬もゆったりとしているし、景色を楽しむ暇も十分ある。 空は青く澄んでいて見ていて気持ちがいいし、森の緑は清涼感を感じさせてくれてる。 降り注ぐ日差しは木の葉を明るく照らしたり葉の間をすり抜け見ているもの楽しませてくれる。 電車の窓から見る景色もいいもんだが、馬の方がより良く景色が感じられていいかもしれない。 一番はやっぱり自分の足で歩くことだがな。 それにしてもいい景色だ。元の世界じゃお目にかかれない景色だな。 こんなに自然が溢れたところなんて殆ど無かったからな。 「あ……」 そんなことを思っていると、ルイズの突然な間抜け声が聞こえた。 「どうしたんだ?」 「食事のことを全く考えてなかったわ」 「……バカだな」 「な!バカじゃないわよ!ちょっと忘れてただけだよ!」 小声で言ったのだがどうやら聞こえたらしい。結構耳はいいようだ。 まあ、バカとは言ったが私も食事のことは考えていなかったんだよな。 しかし、やはりルイズはこうだろう。 シャキシャキしたルイズは気持ち悪くていけない。 っと、それは置いといて、 「食事のことなら心配しなくてもいい。シエスタがちゃんと用意している」 らしい。 出発前にそう言っていたからな。嘘ではないだろう。 「ホントなの?」 「はい。このバスケットの中に入ってます」 「気が利くわね。たしか前に来たときに、もう少し先に景色のいいところがあったわ。そこでお昼にしましょう」 その言葉に従い、暫らく行くと少し開けた場所が見えてきた。 ルイズがそこに先に行き、馬から下りる。 そしてシエスタと私も後に続き馬から下りる。そこは綺麗な場所といっても過言ではなかった。 芝生が敷き詰められ、花が所々に咲いており、開けた場所の中央には木が一本生えており丁度いい日陰を作っている。 「すごいな。誰かが作ったのか?」 「わからないわ。でも前からあるわよ」 「私が前に通ったときもありました」 私の言葉にシエスタとルイズがそう言う。 そして誰も何も言わなかったが、3人とも日陰に入った。やはり日に当たりながらだと体が熱くなるからな。 そしてシエスタが持ってきたバスケットのふたを開ける。そして、 「きゃっ!?」 悲鳴を上げた。 「どうした!?」 「どうしたの!?」 「そ、それが……」 シエスタがバスケットを見ながら困ったような顔をする。 バスケットの中を見ようとすると、何かがバスケットの中から出てきた。 それは……子猫だった。小生意気なあの子猫だった。 「なんでここに。っというよりなんでバスケットから?」 「かわいい猫じゃない」 ルイズは猫に近寄ると頭を撫で始める。 猫は気持ちよさそうに咽喉を鳴らす。前に比べて随分と人間慣れしたじゃないか。 「バスケットの中は大丈夫です。荒らされてません」 「そうか」 そりゃよかった。もしあらされてたら尻尾持って振り回すところだった。 「ミス・ヴァリエール、これを」 「ありがと」 シエスタがバスケットから箱を取り出し、ルイズへ渡す。 おそらくその中に料理が入っているのだろう。ルイズが箱のふたを開ける。 「おいしそうじゃない」 中に入っていたのはオーソドックスなサンドイッチだった。 彩りも鮮やかで食欲をそそる。 「馬に乗るので少し軽めのものにしたんですけど、喜んでもらえてよかったです」 シエスタは笑みを浮かべながらそう言った。 そしてもう一つ取り出しそれを自分の前に置く。次に取り出す分がおそらく私のなのだろう。 しかしバスケットに手を突っ込んだまま一向に動こうとしない。どうしたのだろうか? シエスタが私の顔を見る。その顔は今にも泣きそうだ。本当にどうしたんだ?ルイズも気になったのか、小首をかしげてシエスタのほうを見る。 しばらくしてシエスタが恐る恐るといった感じでバスケットから手を出し始める。 そして出し切ったシエスタの手には荒らされた痕跡がはっきりと付いている箱が握られていた。 中身も絶望的だろう。 「すみません!私のと交換しますから!」 シエスタが朝見たときよりもさらに凄まじい勢いで頭を下げ謝ってくる。 「ああ、気にしなくていい」 「でも!」 「気にしなくてもいい。もちろん交換もしなくていい。別にシエスタの責任じゃないからな」 シエスタにそう言いながら手袋を外し、ルイズの近くにいた猫の尻尾を掴んだ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/337.html
ルイズの身嗜みが終わり、二人そろい部屋を出る。 すると同じタイミングで横の部屋が開いた。 「あら?ルイズ、おはよう」 赤い髪を掻き上げながら挨拶をする少女。 「……おはよう。キュルケ」 朝っぱらから嫌なモノ見た、とでもいいたげに挨拶するルイズ。 ルイズの視線をアヴドゥルは追ってみる……納得いった。 良く言っても『慎ましやかな丘』であるルイズ。 一方、控えめに言っても『山脈』のキュルケ。 戦力の差は歴然であった! アヴドゥルが生温かい視線をルイズに送っているとキュルケが観察するように見てくる。 「ふ~ん…本当に平民を召喚したんだ。…………逞しそうだけどタイプじゃないわね」 「ちょっと!勝手に人の使い魔、見ないでよ!」 ジロジロとアヴドゥルを見られ、警戒したのかルイズが二人の間を遮る様に立つ。 「…ぷッ」 「へ?」 そんなルイズがツボに入ったのか、キュルケの笑い声が廊下に響く。 「あっはっは!平民なんて凄いじゃないwさすがね~w」 明らかにからかわれている! ルイズは怒りに震える拳を握り締める。 (……いつか覚えてなさいよ~) しかし、召喚したのは自分のため何も言い返せない。 「使い魔ってのはね、この子みたいのを言うのよ。フレイム!」 ピンッ!っという指パッチンの後、キュルケの部屋から赤く大きなトカゲらしきモノが出てくる。 「……ほう」 思わず感嘆の声が出るアヴドゥル。 今までカブトムシのようなスタンドなど、変わった生物?を色々見てきた。 昨日は旋回する竜らしき生物も見た。 しかし! 自分と同じ火の属性の大トカゲ……いや『ヒトカゲ』はそれら以上の感動を与えてくれた。 キュルケはルイズに使い魔自慢を言っている。 それに別段興味もなかったアヴドゥルはフレイムに集中していた。 すると、使い魔効果かは知らないが微妙な意思疎通ができた。 「きゅるきゅる?」 「アヴドゥルだ」 「きゅる!きゅるきゅる」 「ああ、よろしく頼む」 使い魔組みは主人と正反対に、仲良く挨拶を交し合っていた。 ようやく話が終わったのか、両主人がフレイムの頭を撫でているアヴドゥルに気付く。 「あら?フレイムが私以外に触らせるなんて」 「アヴドゥル!ツェルプストーの使い魔なんかと馴れ合わないの!」 廊下に響くルイズの怒声。 それを聞いたキュルケは呆れの入った溜息と共に、アヴドゥルに一言告げる。 「あなたも癇癪持ちの主人を持って大変ね、嫌になったら私のとこに来なさい。いつでも雇ってあげるわ」 (ルイズへの嫌がらせだけど) その言葉を最後に、じゃッあね~っと、ドップラー効果を活用しながら去っていくキュルケを、親の敵の如く睨み付けるルイズ。 「キュルケのやつ~。自分がちょっとサラマンダーなんか引いたからって自慢しちゃって~………胸……飾り……(ぶつぶつ)」 プルプル震えながらキュルケへの怨みを語る。 ある程度落ち着いたのか、今度はアヴドゥルに視線を向けてきた。 (全部コイツがいけないのよ!なんで愚者な犬や、ホル~スな隼じゃないのよ!) 睨み付けながら考えることは、完全な八つ当たりだ。 だが、使い魔を引いたのはルイズ自身。 コレを当り散らすのを、貴族としての…いや、ルイズのプライドが押し止めた。 「もういい。食事に行くわよ!」 ぶっきらぼうにいい先を行くルイズ。 背中からまだ、腹に据えかねているのが分かったアヴドゥルは黙って付いていった。 ルイズの『約束された勝利(主従関係)』が待つ食堂へ。